第78回:水ビジネスの今後!世界の水の問題を解決するコンサルタント、吉村和就

IDEAストーリー

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本日のIDEAストーリー。ゲストは、グローバルウォータージャパン 代表 吉村和就さん。グローバルウォータージャパンでは、世界の水と環境問題の解決策を提言する事業を行っております。吉村さんに、事業内容や起業に至るストーリーを伺いました。

 

 

 

「世界の水問題を解決したい」

松本:現在、どのような事業を行っているのか、自己紹介をお願いします。

吉村:日本では上下水道処理などは国や自治体が行うため、水ビジネスはあまり馴染みがないと思います。世界中の人が水をどう分かち合って暮らしていくのかということを考え、日本の水処理に関する高い技術を世界に伝え、水問題を解決したいという思いで活動しています。日本は上下水道処理技術が優れており、水に困るということは少ないのですが、世界に目を向けてみると、水問題は深刻です。水問題を解決するために、海水淡水化や干ばつ、水災害に対する水資源の有効活用法などの技術を、国際会議でPRする活動も行っています。

 

「地球上の水分で飲み水は0.01%」

松本:世界では水不足は深刻なのですか?

吉村:地球上の水は14億立方キロメートルあり、海水が97.5%、淡水は2.5%です。淡水の90%以上は氷山氷河や地下水にあり、私たちが下水処理などのエネルギーをかけずに飲める水は0.01%しかありません。ガガーリンが「地球は青かった」という名言を残して以来、地球は水の惑星だと言われていますが、地球を青くしている海水はほとんど飲めず、本当に飲める水は薄皮まんじゅうの皮のようにたった0.01%です。また、地球温暖化が進むことで、空気中に水蒸気が増えてきています。空気に重さが出るため、巨大台風やハリケーンなどの異常気象が起こるなど、水に関する災害も増えています。

 

「日本は水に対する危機感が薄い」

松本:日本は水に対する意識は低いのですか?

吉村:日本は年間約1600ミリの降水量があり、水の循環も良く、水に困ることは少ないです。私たちは「日本の雨は一泊二日」と例えるのですが、雲から雨が降り、大地から海まで流れ出る日数のことで、雨が降っても二日で海へ出てしまうということを考えると、これから温暖化や地震による断水など、水が使えなくなることへの危機感をもう少し持つべきです。

 

「日本は水を大切にする文化」

松本:日本は昔から水に恵まれていたのですか?

吉村:日本の水道普及率は98.5%、下水処理率も85%と優れていますが、水の大切さに気付いたのは明治時代で、伝染病予防のために水道ができました。また、江戸城を造るときも水路を引き、水路を汚す人は水道奉行が厳しく取り締まっており、宗教も水を崇める神様は多く、京都の貴船神社は全国に約270ある水神様の本家です。このような歴史や文化的背景に加えて、農耕稲作民族ということもあり、日本人は水を大切にしてきたと思います。

 

「淡水にすることは膨大なエネルギーがかかる」

松本:海水を淡水にする技術は進んでいるのですか?

吉村:地球上の水の97.5%が海水なので、水不足であれば、海水を淡水に変えればいいという発想になりますが、海水から塩分を抜くことはとてもエネルギーが必要で、水1トンを作るために、約4キロワットの電力が必要です。つまり、お金のある国でなければ成り立たず、産油国のサウジアラビアやカタールでは海水淡水化を積極的に取り組んでいます。しかし、本当に水に困っている国は、水道も下水道も設備されていないような財源がない発展途上国で、食料不足、エネルギー不足、水不足の解決が求められています。日本には、このすべてを解決する技術がありますので、私たちの使命は海外へ出向き、技術を伝え、水問題を解決することだと思っています。

 

「世界の4割が水不足」

松本:76億人いる地球ですが、約4割が水不足に直面しています。地球温暖化が進むと、地下水に海水が入り込み、海水淡水化の膜がなければ水を飲むことができない状態になっています。国連では持続可能な発展のために、2030年までに飢餓や貧困などの17項目を全世界で取り組もうと決め、水問題の解決も含まれています。

 

「世界では水を巡る争いが起きている」

松本:水で争いが起きることはあるんですか?

吉村:日本のように自国に水源を持っている国は世界で21カ国しかありません。水源が複数の国にまたがっている場合、水による争いが起きてしまいます。例えば、ヨーロッパのナイル川は上流のエチオピアが大きなダムを建設しています。そうすると、ナイル川の水位が下がり、海の水位は上がるため、塩水化により、エジプトのスフィンクスやピラミッドが崩れ始めています。また、エジプトは、ナイル川の氾濫によってあふれ出た肥料分で綿花や野菜を作っていましたが、上流のダム建設によって水が流れてこなければ、農作ができなくなります。このように、川が複数の国をまたがることで、水による争いも勃発しています。

 

「牛丼1杯は2000リットルの水でできている」

松本:水はあらゆることに関係しているのですか?

吉村:全世界の水資源を100とすると、農業で7割使われています。バーチャルウォーター(仮想水)という考え方があり、食物を育てるためにどのくらいの水が使われたかと示すものです。日本の食材を考えたとき、4割が海外の水でできていると言われています。例えば、牛丼1杯分の牛肉を作るためには200リットル必要で、食べ残しをすることは世界の水資源を無題にしているということです。同じように、携帯電話にはプラスチックやICチップなどからできており、製造に関わる水を試算すると1台あたり911リットルの水で作られていることになります。このことから、経済を支えているのはすべて水だと分かります。

 

「コップ1杯の水の潤い」

松本:人間の体にとっても水は大切なのですか?

吉村:赤ちゃんは約80%が水でできているように、人間の体にとって水は大切です。脳から1%の水分が不足するだけでイライラが始まり、2~3%で物忘れ、7~10%不足すると生命の危機にさらされます。十分に水分補給することで、イライラもなくなりますので、怒りっぽい人にはぜひ水を飲ませてあげてください。

 

「水ビジネスへの参入は長年の経験が必要」

松本:日本で水ビジネスをやっている企業はどのくらいですか?

吉村:水を専門としている企業は約60社あり、海外で活躍している企業は11社です。日本では水は行政が管理する傾向にあることや、長年の経験が必要ということから、水ビジネスへの新規参入は難しいと思います。しかし、日本には優れた水処理技術がありますので、飲み水を生み出すようなビジネスで参入してくることは可能です。

 

「水は個人情報の宝庫」

松本:水から得られる情報はありますか?

吉村:私の著書で『水に流せない「水」の話』というものがあり、水は個人情報の宝庫であると書いています。例えば、水の使い方がリアルタイムで分かると、水の量で家族構成や、既婚か未婚ということが分かります。また、独身なのに、金曜日の22時ごろになると水の使用量が増えるということであれば、彼女が来たのかなという面白いデータも取ることも可能です。水を分析すると、使用した薬の種類なども分かることから、個人情報の宝庫だと思います。

 

「インフラの老朽化が課題」

松本:日本の水問題の課題はありますか?

吉村:昭和30年代から作り始めた水インフラが老朽化してきており、パイプからの水漏れなどが多発しています。修繕するためには国民から集めた水道料で賄う必要がありますが、人口減の影響で予算が確保できない状況です。そして、水道事業は各地方自治体がバラバラで進めているため、今後は結束して問題解決に臨んでいくべきだと考えています。また、行政だけではなく、民間企業が参入することで、より効率的な水の提供などに繋がると思います。

 

「日本の技術は優れているが高価」

松本:日本企業の水ビジネスは海外展開しているのですか?

吉村:日本の水処理の技術は優れているのですが価格が高いため、東南アジアなどGDPが低い国は技術が欲しくても手が出せないという状況です。発展途上国は給料も日本の10分の1程度のため、技術などの価格も10分の1にする必要があります。日本はアセアン諸国に対して、衛生面での支援にお金を出しているにも関わらず、水ビジネスとして受注している国は中国や韓国の技術が安い国となっています。

 

「幼いころの綺麗な水を取り戻したい」

松本:これからの技術発展はどのようになっていくのですか?

吉村:これから水の量は足りなくなりますので、海水淡水化や水処理の膜を使用して、水のリサイクルをしていく必要があります。私は秋田県秋田市生まれで、旭川という綺麗な川で遊ぶことが日課でした。旭川にはサケやマスなどの魚がいましたが、中学生になったころに川の上流に住宅ができ、川はどんどん汚染されていきました。たくさんの生き物がいた綺麗な川を取り戻したいという思いが、起業した一つの理由でもあります。

 

「水を志す、志水塾」

松本:今後のお仕事の目標や夢を教えてください。

吉村:世界の水は悪くなる一方ですので、水に関する若い人を育てていきたいと思っています。そのために、10年前からボランティアで「志水塾」を立ち上げ、大学院生から会社員など40人の塾生が参加し、水に関するノウハウを伝えることを定期的に有楽町で開催しています。環境問題を解決したいという志の方や、転職を考えている方が入塾され、これまで国連職員に2人転職が決まりました。

 

「興味のあることは無我夢中で取り組む」

松本:最後に、起業を考えている方へメッセージをお願いします。

吉村:若い方は少しかじって、ぱっと辞めてしまう傾向にありますが、自分が興味を持ったことは8000時間、あるいは、3年間、とにかく無我夢中でやってみてください。また、情報はスマホで得ようとしますが、人と人とが直接会って、話をすることで生きている情報が得られます。何かにチャレンジしようと思ったら、情報を集める、その情報を加工する、そして、自分で使える武器にするという3段階が必要ですが、インターネットに乱立した情報を見るだけで疲れて終わってしまう方も増えています。インターネットは情報が簡単に手に入り便利ですが、情報を得て、自分自身で活かせるようにする努力はしてほしいと思います。

 

 

 

グローバルウォータ・ジャパン 代表 吉村 和就(よしむら かずなり)
国連テクニカルアドバイザー

長年、大手エンジニアリング会社にて営業、開発、市場調査、経営企画に携わり、環境分野ではゼロエミッション(廃棄物からエネルギーと資源創出)構想を日本に広げた。国の要請により国連ニューヨーク本部に勤務、環境審議官として発展途上国の水インフラの指導を行う。
 
またISO/TC224の日本代表として、日本提案をISOに登録させた。
 
日本を代表する水環境問題の専門家の一人であり、国連本部勤務の経験を踏まえ、日本の環境技術を世界に広める努力を続けている。その間多くの講演(英語、日本語)をこなし、また、関連業界紙や専門誌に数多くの寄稿をしている。

また、NHKクローズアップ現代、TBS,テレビ東京、フジテレビ等で、水問題を国民に判りやすく解説している。最近では、水の安全保障戦略機構・技術普及委員長、経済産業省「水ビジネス国際展開研究会」の委員も務めている。

肩書き
・国連テクニカルアドバイザー
・ISO/TC224上水道部会長、日本代表
・水の安全保障戦略機構・技術普及委員長
・経済産業省「水ビジネス国際展開研究会」委員
・文部科学省・科学技術動向研究センター専門委員
・外務省国際協力局「水に関する有識者会議」委員
・(財)造水促進センター・技術専門委員
・(社)日本水道協会・特別会員
・千葉県習志野市国際交流協会副会長

発売中の著書
・「海外における水ビジネス最前線」NTS出版(共著)
・「グリーンニューディル・パーフェクトレビュー」環境新聞社(共著)
・「水ビジネス 110兆円水市場の攻防」 角川書店
・「日本人が知らない巨大市場 水ビジネスに挑む」技術評論社
・「水ビジネスの新潮流」環境新聞社
・「水に流せない水の話~常識がひっくり返る60の不思議~」 角川文庫
・「最新水ビジネスの動向とカラクリがよ~くわかる本」 秀和システム
  
⇒⇒⇒その他著書・共著多数
公的受賞
 「半導体産業向け排ガス処理装置の開発」で工業技術院長賞受賞
保有特許
 水質汚濁防止装置、燃料電池のガス処理・他8件(共願も含む)

グローバルウォータージャパンのHP
http://gwaterjapan.com/

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