第39回:世界で唯一「無重力フォトグラファー」/プール専門フォトグラファー
IDEAストーリー
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本日のゲストは、株式会社Rockin'Pool 代表取締役社長 西川隼矢さん。
株式会社Rockin'Poolでは、プールでの撮影やプールグッズの販売など、プールに関する事業を行っています。代表取締役社長を務める西川さんに、事業内容や起業に至るまでのストーリーをお伺いしました。
「元トップスイマーだからこそできるプールビジネス」
松本:どういった事業をされているのか自己紹介をお願いします。
西川:私はプール専門の水中フォトグラファー、無重力フォトグラファーをしながら、プールの楽しみ方を伝える会社、株式会社Rockin'Poolを経営しています。私は小さいころから水泳をやっており、アテネオリンピックの選考会に出場するくらい水泳に没頭しておりました。その経験を活かして、プールでの撮影などを主な業務として事業展開しております。
「プールだからこそ表現の幅が広がる」
松本:海ではなくてプールに特化している理由はなんですか?
西川:プールが好きすぎるというのも理由なのですが、プールでしかできない撮影などもあります。例えば、写真の良さは光の加減が重要になってくるのですが、海ではなかなか光を調整することができません。しかし、プールでしたら、背景の色を変えたり、黒い布を貼ったりなど、自分の思うように調整できるということもプールでの撮影の魅力だと思います。
それから、海だと、どうしても天候に左右されてしまいますが、プール内は、季節や天候関係なく撮影ができるので、表現の幅が広がるなと感じています。この表現の幅を出せるということを活かし、広告写真なども担当させていただいていまして、北島康介さんの写真を撮らせてもらった広告写真は、2017年のAPAアワードと言われる、日本広告写真家協会のコンテストで3位を取らせていただき、水中写真の可能性が徐々に浸透しつつあるなと実感しています。
「プール専門写真家という唯一無二の存在」
松本:水中フォトグラファーはたくさんいるんですか?
西川:海などを含めると、水中フォトグラファーはたくさんいます。ただ、プール専門というのは私一人です。撮影のときは、完全に素潜りで、ウェットスーツも着ずに、水着一丁で撮影しています。水中のなかの撮影は、なかなかその場に止まることができないなど大変なことが多いですが、被写体となるお客様も慣れてくると、だんだん笑顔が出てきたり、ポーズを変えてみたりと余裕が生まれます。まだまだプール専門フォトグラファーという業種の認知度は低いですが、これからたくさんの人に知ってもらいたいですね。
「撮影目的はウェディング用途まで様々」
松本:どんなお客さんが多いのですか?
西川:二つサービスを展開しておりまして、一つは出張スイマー撮影。これはスイミングスクールなどに出向いて、泳いでいる人を撮影するというサービスです。もう一つは、水中ウェディングですね。マーメイドウェディングというサービスなのですが、結婚式の前撮りをプールで撮影しようというプランです。撮影した写真をウェルカムボードに使用したりされています。
「プールを幅広い人に楽しんでもらう施設を作った」
松本:実は今、プールのなかで取材をしているのですが、この施設はどんな施設ですか?
西川:築40年で10年前までプールとして使われていたドーム型の施設です。こちらをリノベーションして、新たなプール施設に蘇らせようというプロジェクトを発足させ、東京プールラボという名前でオープンしました。テントが5張ありまして、そのなかに小さい3メートルのプールが半個室になっているというのが特徴です。
半個室のプールでエクササイズをしたり、仲間同士で遊んだりということに使用できます。今、取材を受けている大きいプールは3メートルかける6メートルのプールで水中撮影をするフォトスタジオや、プールのなかで映像を見て楽しむという、多目的に使用できるプールです。
「プールでエクササイズできるアイテムを作った」
松本:半個室プールでは具体的にどんなことができるんですか?
西川:株式会社Rockin'Poolで企画販売をしている、プールエクササイズグッズのPoolno(プールノ)という商品があるのですが、膨らませるタイプのサーフボードのようなイメージの商品です。かたちが長方形で四辺に固定するための取っ手と持ち手がついており、持ち運びやすくなっています。
プールでエクササイズするために作った自社製品なのですが、それが各プールに1枚浮いている状態です。それを使って、独自のエクササイズを行ったりしています。水の上に浮くと、バランスが取れず、いつも使わない筋肉などを使うので鍛えられます。
「プールの上だと普段できない体験ができる」
松本:エクササイズ以外に何か体験できるんですか?
西川:親子連れやカップルで来ると、Poolno(プールノ)の上でゲームをやって、お互いの距離が縮まったりという効果があります。また、縄跳びもやっていて、地上だと10回とかは平気でできると思うのですが、プールの上だと3回でも難しいです。このように普段の生活で体験できないことがプール上で体験できます。
「水泳をしたいと思ったわけではなかった」
松本:今に至った、西川さんのストーリーをお伺いしてもよろしいですか?
西川:小学校4年生くらいのときから水泳を始めたのですが、最初は乗り気じゃなかったんです。本当はバスケをやりたかったのですが、足首を怪我して、ドクターストップがかかり、仕方なく水泳を始めたというところから私の水泳人生がスタートしました。やりたくて始めたわけではないのですが、いざやり始めると、スイミングスクールの育成クラブから声がかかるくらい成績が伸びて、中学2、3年のときには県で1番をキープでき、高校3年生までは井の中の蛙状態でした。その後、大学も推薦で鹿屋体育大学に入学することができました。
「大学時代に挫折を経験する」
松本:どういう大学時代を送りましたか?
西川:大学は全国から水泳のトップスイマーが集まってくるので、自分の実力のなさに愕然としました。女の子にも勝てない時期があり、悩んで、眠れない日々が続き、うつ状態になるまで落ち込みました。大学1年生のときは他の部員に圧倒されっぱなしで、自分には水泳は向いていないと、水泳が嫌いになってしまったのですが、1年生の終わりのころに部員同士で話す機会があり、それまでは、他の部員が敵に見えていたのですが、そこから、みんな悩みは一緒なんだと分かち合い、4年生のときに結果が出ました。同じ部内には、金メダリストの柴田亜衣選手もいて、切磋琢磨し、水泳技術を伸ばすことができました。
「就職活動も兼ねて全国大会に行っていた」
松本:そのあとは就職されたんですか?
西川:大学時代の水泳大会は東京でやることが多いので、大会で東京に出てくる際は、就職活動も兼ねて行きました。私には水泳しかないと思っていたので、スイミングインストラクターを目指そうと思い、ジムを探しました。大手のジムも考えましたが、転勤はなるべくしたくないと思ったので、東京のみの展開でやっているジムを探して、豊島区に本社があるジムの面接を受け、一発で合格し、水泳のインストラクターとして勤務しました。
「他の業種もやってみたいとIT企業に転職する」
松本:そこからはどういう経緯ですか?
西川:水泳のインストラクターは、プールに長時間入っていると、体がだんだん冷えてきて、年中風邪をひいている状態になり、体調も精神も崩してしまい、3年で退職しました。その後は、一度の人生なので、水泳以外にも興味のあることをやってみたいと思い、IT企業を目指すことになりました。
IT系の転職フェアに行ったのですが、水泳以外の経歴がない私はなかなか相手にされず、10社以上回ったとき、色黒の部長さんから「君、いい体しているね」と声をかけていただき、社内のソフトボールチームを強化したいということで、私の運動経験を評価していただいたのか分からないですが、その会社に入社することになりました。
「IT企業で働きながら、水泳イベントを企画した」
松本:IT企業では何をやっていたんですか?
西川:官公庁関係のプログラマーをやっていました。もちろんプログラマーとしての経験はないので、ゼロから勉強するところから始まり、とても苦労しました。水泳インストラクター時代のときに水泳が嫌いになって、辞めていたので、1、2年ほど水泳は一切やらないという状況が続きましたが、あるとき、社内で水泳部を作ろうという話が持ち上がり、そこから徐々に水泳に触れる生活が始まりました。水泳がまた楽しくなり、自分自身で辰巳国際水泳場を貸し切って、水泳のイベントを企画しました。
日本遊泳選手権という、泳ぐタイムを競う大会ではなくて、碁石拾いやバランスボールをバトンにしてリレーをやったりなど、競泳とは関係なく楽しめる種目を実施しました。
「プール利用率を上げるためのイベントを企画したい」
松本:なぜ、タイムを競うのではなくて、遊びを中心にしたんですか?
西川:選手経験のある人は、引退してから大会に出ても、自分が持っている自己ベストから何秒落ちたかを確認する場でしかなくなってしまいます。そこに楽しさは見出しにくいので、泳ぐことをやめてしまう人が多いのが現状です。
泳ぐことをやめないでほしいという思いから、単純にタイムを競うのではなくて、遊びを取り入れて、みんなで楽しむ要素のある大会にして、プール利用率を上げたいと思ったのがきっかけです。その大会は反響が良く、また実施してほしいという声をたくさんいただいたのですが、自費でやっていたので予算の問題が出てきました。そこで、脱サラして、メッシュキャップやランニングアイテムなど、スポーツ用品を扱うアパレルを始めました。
「自分が本当に好きでないものは続かない」
松本:脱サラしてうまくいきましたか?
西川:大会をやるための予算を稼ぐために、当時のランニングブームに乗っかって、ランニンググッズを作って、販売していました。妻がデザイナーだったので、二人三脚で販売を行っていたのですが、私も妻もさほどランニングに興味はなかったため、仕事に面白味を感じなくなり、ランニングアイテムを作る事業は続きませんでした。
「何気なく撮った1枚が今の事業に繋がる」
松本:その後はどうされたんですか?
西川:趣味で、友達である、現役プロスイマーの写真を撮っていたんですけど、彼が引退するということで、日ごろ練習している姿などを収めた写真集を贈りたいなと思い、撮影に出向きました。
撮影していたプールに、水族館でよく見かけるような、プールのなかをのぞける小窓があったのですが、そこから、たまたまパシャっと撮影したら、とてもかっこいい写真が撮れたんです。それが初めての水中写真なのですが、肉眼で見るよりも綺麗な世界が撮れたと感動し、すぐにカメラ機材を購入し、撮影の練習を始めました。あのとき何気なく撮った1枚の写真が今の事業に繋がっていると思います。
「SNSから撮影依頼がくるようになった」
松本:撮影の営業とかはしていたんですか?
西川:SNSにファンページを作り、そこに撮った写真を掲載していたら、それを見た方から、「私も撮ってほしい」、「うちの子撮ってほしい」、「うちのスイミングスクールに来てほしい」など、ご依頼をいただくようになり、そこから徐々に仕事が増えてきました。また、メーカーの商品を撮ってほしいという企業案件も増えてきて、正式に原宿にあるマネジメント会社に所属し、水中フォトグラファー、プールフォトグラファーとして、現在6年目を迎えることができました。
「最初はバイトをしながら生活していた」
松本:フォトグラファーだけで食べていけたんですか?
西川:全然食べていけなかったです。なので、水泳インストラクターのバイトを続けていました。時給が良かったということもありますが、閉館後にプールで撮影の練習をさせてもらえたことがバイトをしていて良かった点ですね。夜中に薄暗いなかでマネキンを沈めて、いろんな角度からライトを当てて、様々な実験をして、撮影スキルを伸ばしていきました。
「プールでしか表現できない構図が魅力」
松本:プールでの撮影で工夫している点などありますか?
西川:水面の揺らぎと浮遊感で非日常の空間を演出することを工夫しています。水中にプカプカ浮いている構図などは、陸上では絶対に撮影できないし、浮いた状態であごを上げると、フェイスラインがすっきりするなど、あらゆる美的効果も演出することができ、プールでしか撮影できない構図に魅力を感じます。
「水泳界に貢献できているのかという疑問から会社を設立」
松本:フォトグラファーとしての活躍から事業が広がってきたのですか?
西川:そうですね。5、6年プールフォトグラファーをやってきて、本当にこの仕事は水泳界に貢献できているのかという疑問が生まれました。プール市場やフィットネス市場を見たときに、私がやっている仕事はとても小さいことだなと、プールにいる人しか喜ばせていない仕事だと思いました。
泳いでいる人をかっこよく撮ることもいいのですが、プールに足を運ばない人がプールに入るきっかけを作る仕事をしたいと思うようになり、それができれば、水泳市場を大きくすることもできると考えました。プールを楽しむ事業という、今までやっていないことをやるといということが使命だと感じ、株式会社Rockin'Poolを立ち上げ、プールのなかのイベントを企画したり、多角度的にプールを楽しんでもらう事業を展開していきたいと思い、今に至ります。
「未来のプールのことを夜な夜な考える会」
松本:プールのなかに映像を流すなどのアイデアはどういうきっかけで生まれたのですか?
西川:東京プール研究会という、プール好きが集まって、夜な夜なお酒を飲みながら、プールのことを考える会というのがあるのですが、そこで出たアイデアです。プールのなかに映像が流れて、魚が泳いでいる映像だったり、イアン・ソープと泳いでみたり、いろいろ妄想が膨らんでいくなかで、実際にかたちにしようと計画が始まりました。
水中モニター自体はそんなに費用はかからないのですが、防水機能が備わったケースに300万以上の費用が発生することが分かり、どうするか悩んだ末、クラウドファンディングで資金を集めることになりました。結果380万の資金が集まり、昨年7月に完成披露イベントを実施しました。
「大手フィットネスクラブなどにも営業」
松本:東京プールラボという施設はいつオープンしたのですか?
西川:今年の7月1日にオープンしたばかりです。この東京プールラボ自体もクラウドファンディングで資金を集めてオープンしました。プールには、大手フィットネスクラブなどの方たちも来場いただき、Poolno(プールノ)という、エクササイズグッズを実際に使用していただき、それを販売するという事業も行っています。
「興味のない職種にもチャレンジしてみる」
松本:起業したいのですが、何をやったらいいか分野が決まっていない方向けにアドバイスをお願いします。
西川:面白い会社に一度入ってみるというのもいいかもしれません。何をやりたいか分からないのであれば、経験をすべきだと思います。悩んで何もしないよりも、興味のない職種に挑戦してみるとか、発展途上の企業に行って、企業と一緒に成長しながら、自分のやりたいこと、今後のビジョンを広げていくのもいいんじゃないかと思います。
「すべての経験が活かされる」
松本:モチベーションが続かないものもやったほうがいいのですか?
西川:その職業が合う、合わないは、結果論なので、最初は嫌いでも最終的に好きになるということもあると思います。先入観で合う、合わないを決めるのではなくて、興味があるとか、少しでもピンときたら、まずやってみるというのもありだと考えています。私もまさかフォトグラファーになるなんて思っていませんでした。
これまで経験してきた仕事はプール専門の会社に関係ないことと感じるかもしれないのですが、水泳インストラクターで人との関わり方や水のなかでのノウハウ、IT企業ではパソコンのスキルなど、今の仕事に活かせていますので、決して無駄ではなかったと思います。
「クラウドファンディングで資金調達」
松本:何をやるかによると思いますが、最初の資金はどれくらい用意したほうがいいですか?
西川:業種によるので何とも言えないのですが、クラウドファンディングはいいと思います。ただ、クラウドファンディングは信用をお金に変えるので、本当にやりたいことだったり、周りの人がどう豊かになるかを真剣に考えて、実施すべきだと思います。安易に儲かるからといって、手を出すべき手法ではないですね。
コツはどれだけ人を巻き込めるかだと思います。独りよがりでは絶対にお金は集まらないので、みんなで盛り上げて、描いた夢に向かって、これがどうしても必要なんですというビジョンが描けているかがポイントだと思います。
「水泳人口を増やしたい」
松本:今度の事業展開、もしくは、仕事上での夢を教えてください。
西川:2020年に向けて、水泳人口を増やしたいと思っています。30年前のプールブームが一段落し、全国に多くあったプール施設が古くなって、経営が続かないということから、今、閉鎖が相次いでいるという状況です。それに伴い、水泳人口も減っているので、そこをなんとか変えたいという気持ちでいます。
プールの経営のデメリットは費用対効果が悪いということなので、25メートルプールが必要であるという概念を変えて、小さいプールでも楽しめるんだということで、自宅の庭や、マンションの屋上、オフィスの片隅などに、プールが設置されていけば、経営としても面白いのかなと思います。置く場所を増やす工夫をして、水泳人口を増やすことが夢です。
「やりたいことを発信すること」
松本:最後に起業を考えている方へメッセージをお願いします。
西川:私がそんなこと言える立場ではないのですが、やってみたらなんとかなる。本気でやれば、誰かが応援してくれます。そのために、本気でやりたいことを発信していくことが重要だと考えています。発信しないと誰にも伝わらないので、自分がどれだけ本気なのか、周りの人に伝えられると、それを応援してくれる方というのは絶対いると思うので、しっかり発信してください。
起業におすすめな本/社長の「1冊」
ひきこもりから瞬く間に「IT長者」へ…ロングセラー『こんな僕でも社長になれた』を凌ぐ、その後の転落・逃亡・孤立を巡る物語。堀江貴文さん、末井昭さん、の子さん熱く推薦の一冊!
株式会社Rockin'Poo 代表取締役 西川 隼矢
アテネ五輪代表選考会出場や、200m自由形の香川県記録10年間保持の経歴を持つ、筋金入りのPOOL JUNKY。プール愛が深すぎて、もはや変態の域に到達。世界で唯一「無重力フォトグラファー」を名乗るプール専門フォトグラファーであり、我らがRockin'PoolのクレイジーCEO。
《もっとプールに人と笑顔を集める》固定概念にとらわれない自由な精神とアイディアをプールに取り込み、プールの可能性を広げ、プールの新しい楽しみ方を提案します。メイン事業である水中撮影と並行して、プールで遊ぶことの楽しさを知ってもらえるようなイベントの企画運営事業、プール内で楽しく遊べるアイテムの開発事業にも力を入れ、プールの魅力を世界中に発信し、もっとプールに人と笑顔が集まる社会を創造していきます。
株式会社Rockin'Poo
http://rockinpool.com/