第49回:「幸福学」研究の第一人者!「長続きする幸せ」と「長続きしない幸せ」

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本日のゲストは、慶應義塾大学大学院、システムデザイン・マネジメント研究科、教授、前野隆司さん。前野さんは、「幸福学」の第一人者として、日々、人間の幸福について研究しています。研究内容や現在に至るまでのストーリーを伺いました。

 

 

「幸福学を研究する前はエンジニアだった」

松本:幸福学を研究する前の仕事はどういうものでしたか?

前野:エンジニアとして、ロボットやカメラの開発をしていました。数学と物理が得意だったので、機械工学科に進学し、卒業後はメーカーに就職しました。何かを作ることが好きというよりは、得意だったから就職したという感じで、本当は心理学や哲学、芸術に興味がありました。

 

「ロボット研究から、人間の幸せを考えるようになった」

松本:幸福学を考えるようになったきっかけはなんですか?

前野:慶応大学にて、ロボット研究を始めることになり、周りはガンダムやアトムに憧れて、ロボット制作に打ち込んでいるなか、私は心を理解したいという理由で、感情に合わせて表情を変えるロボットなど、幸せなロボットの研究をしていていました。その後、大学院ができたことをきっかけに、ロボットの幸せではなく、人間の幸せも研究したいということがきっかけで幸福学を考えることになりました。

 

「人には心がない」

松本:自分も幸せになりたいと思って、幸福学を研究し始めたのですか?

前野:実は、幸福学の研究をする前は、「人に心はない」という研究をしていました。例えば、人が指を曲げようと思うよりも0.35秒前に指を曲げるという筋肉の指令はすでに始まっています。つまり、私たちが指を曲げようと思ったときが本当の始まりではなく、その前に無意識に脳のどこかで指を曲げると決めているということです。人間はあたかも自分の意思によって動いていると思っていますが、実はすでに決められた行動をしているだけで心はないという研究もあります。この研究結果を知り、人はすでに死んでいるんだと思うようになってからは、悩みもなくなり、幸せな気持ちで満ち溢れるようになりました。

 

「動的幸せと静的幸せのバランスが良い状態が幸せ」

松本:幸せな状態とはどういうものですか?

前野:不幸な人は、あれをやれば良かった、なんでこうなっちゃったんだろうなど、過去と未来にとらわれすぎて、心がモヤーっとしています。私の研究によると、幸せな人は、何かを成し遂げたときのワクワク感のような動的幸せと、温泉に入ったときのようなボーっとするような静的幸せの両方がバランス良くある状態だと思います。私は、すべての人に幸せになってほしいと思い、幸福学の研究を始めました。

 

「幸せは総合力」

松本:幸せになる要素はなんですか?

前野:幸せは人によって違うと言う人もいますが、私が1,500人に調査したところ、幸せには基本パターンがあることが判明しました。統計的に分かったことは、夢、友達、感謝、前向きさ、自分らしさなどの要素を持ち合わせている人が幸せだということです。また、幸せには短期的な幸せと長期的な幸せがあります。短期的な幸せは、金、物、地位などがあり、こちらの幸せは長続きしません。長期的な幸せは、健康、夢がある、感謝しているなどがあり、こちらの幸せは長続きします。また、自分のことを良いことも悪いことも含めて好きであるという自己需要ができている人は幸せな人が多いです。幸せは総合力ですので、金や地位を手に入れるなどの短期的幸せだけでなく、健康や人に感謝するなどの長続きする幸せも感じられるようにすることが幸せになるコツだと考えます。

 

「人は即効性のある幸せに飛び付く傾向がある」

松本:人はどうしても短期的な幸せを求めてしまいがちですか?

前野:健康や夢を持つことが長期的な幸せだということは分かっているのですが、それらは目に見えるものではないので、人はどうしても金や地位など目に見える幸せを手にしようとします。私が幸福学で話していることは、金や地位などの即効性のある幸せに飛び付きたくなる気持ちは分かるけど、人に感謝して、夢を持ち、イキイキした人生を送ったほうが幸せだということを伝えています。起業する際も、自分のためではなく、地域貢献など、人のために事業を行うことが幸せに繋がると思います。

 

「幸せな社員は不幸な社員より3倍想像力が上がる」

松本:幸福学というのは世界的に流行っているんですか?

前野:世界的に流行っていて、ビジネスにも取り入れられています。例えば、社員を幸せにすると、社員のやる気が上がり、不幸な社員よりも想像力が3倍も上がるという研究結果も出ています。日本で幸福学をビジネスに取り入れている企業はまだ少ないですが、社員を幸せにすると、やる気や想像力が上がり、欠勤率や離職率も下がるということが分かっていますので、それに気付いた企業が少しずつ取り入れているといった状況です。

 

「ホワイト企業大賞」

松本:幸せな会社というのはいくつかあるんですか?

前野:いざ、幸せな会社に改革しようと思ったときに、大手企業だと、社長の思いが全社員に伝わりにくいですが、中小企業だとダイレクトに社員に伝わるため、中小企業に幸せな会社というのは増えています。例えば、今年、ホワイト企業大賞を受賞した西精工という、ネジを作っている会社がありますが、社員に「月曜日に会社に行きたいですか?」と聞くと、8割が「行きたくてしょうがない」と回答しました。それは、社長自身が社員のことを家族以上の存在だと思っており、社員も早くみんなと仕事がしたいという気持ちが芽生えているからだと思います。金曜日は土日に家族と過ごすことが楽しみで、日曜日になると会社に行くことが楽しみという気持ちになれる会社が増えれば幸せなことだなと感じました。

 

「信じ合えれば、幸せな会社は作れる」

松本:幸せな会社を作るコツはありますか?

前野:私の研究から分析すると、仕事へのやりがい、面白さ、仲間との信頼関係を築けている会社は幸せだと思います。例えば、未来工業という会社も幸せな会社として有名ですが、そこは報連相を廃止し、社員の行動を管理せずに任せることで、やりがいや責任を持って、仕事に向き合うことができ、モチベーションが上がったそうです。多くの会社は、ノルマがあったり、期限があったり、社員を管理したがりますが、そうすると、仕事にやらされ感が出てしまって、働くことに幸せを感じにくくなってしまいます。そうではなくて、社長をはじめ、全員が周りを信頼し、任せ合いながら仕事に向き合うことができれば、幸せな会社は作れると思います。

 

「競争意識ではなく、オンリーワンを目指す」

松本:他にも幸せになるコツはありますか?

前野:幸せになるコツは四つと言っていて、一つ目は、夢や目標を持っていること。二つ目は、人との繋がりや感謝すること。三つ目は、前向きで楽観的なこと。四つ目は、自分らしく、人の目を気にしすぎないことです。そして、競争意識を持たず、自分らしくいるということも重要です。例えば、ライバル会社を蹴落としてやるという社長もいれば、うちはうちらしく、社会に貢献するために事業をするという社長もいます。蹴落としてやると言っている社長は、いくら利益を得ても、幸せは長続きしないので、競争意識は持たずに、いかに自分らしく、オンリーワンを目指せるかが、幸せになるコツだと思います。

 

「幸福度と満足度は違う」

松本:幸福度と満足度は違うのですか?

前野:満足度は金や地位を手にしたときの部分的なものだと考えています。例えば、ある研究によると、家を購入した際、家を買ったということに対する満足度は上がる一方で、幸福度は上がっていなかったという研究結果もあります。満足度と幸福度が違うということを多くの人は認識しておらず、新しい家さえあれば幸せになれると思いますが、古い家でも家族仲良く幸せに暮らしている人もいるので、仲の悪い家族が家を買っても、幸せにはなれず、不幸だということです。

 

「お金儲けのために起業すべきではない」

松本:儲けたいと思って、起業することは避けたほうがいいのでしょうか?

前野:本来は利他的、つまり、人のために起業することがベストですが、生きていくためには、ある程度の資金も必要だと思いますので、お金を儲けるために起業することは悪いことだとは思いません。しかし、お金儲けだけを考えて、巨額の富を手に入れたときに、自分の思い描いていた幸せと違ったということもありますので、起業する理由はよく考えたほうがいいと思います。起業して、一番いいのは、自分のアイデアで世の中を幸せにして、自分も家族も幸せになれる事業をすることをお勧めします。

 

「目標は高くしすぎないこと」

松本:幸せを掴むために意識することはありますか?

前野:何事もやってみる、ありがとう、何とかなる、自分らしく、この四つを意識することで幸せは近づくと思っています。幸せを掴むためには、最終的に大きな夢を持つことだとは思いますが、目標はあまり高くしすぎないことが重要です。例えば、山を登るとき、頂上が高くて、果たして登り切れるだろうかと不安になりますが、目の前の一歩一歩を着実に登っていくと、頂上に到達できるわけです。ビジネスで言うと、100億円を儲けることだけを目標にしていてもなかなか達成できませんが、今週の売上目標を達成することや、今週こそは新製品を作るなど、ちょっとずつできることをクリアしていくことで、結果的に大きな目標に繋がっていくと思います。小さなことでも自分が出来る範囲の目標を作り、それを達成し続けていくことが幸せの近道だと考えています。

 

「幸せな人の周りには幸せが集まる」

松本:不幸せだと感じる人はどうすればいいですか?

前野:同じ会社の同期だけでなく、年齢、国籍、異業種の友達など、多様な人間関係を持つことが幸せになるコツです。ビジネスモデルを作るときも、自分と同じ価値観を持った人間に相談するよりも、多様な人に相談したほうが幅広い意見を貰えるので、成功しやすいです。そして、ある研究によると、幸せな人の周りには幸せな人が多いということも分かっていますので、幸せな人と交流することもお勧めです。幸せな人とは、いつもワクワクしていて、楽観的で自分らしく生きている人ですが、一番分かりやすい幸せな人の見分け方は、目が輝いているかどうかです。そのような人とコミュニケーションを取ることで、自分自身も幸せに近づけると思います。

 

「若いうちは失敗も含めてチャレンジするとき」

松本:幸せな会社は社長自身が幸せな人であることが多いのですか?

前野:そうですね。幸せな会社の社長に会ってみると、ほとんどの社長が自分自身が幸せだと感じている人が多いです。例えば、ネッツトヨタの横田会長のシンポジウムを聴講した際、「社員を幸せにすることが経営者だ」と、本気で言っていることが伝わってきました。自分の幸せよりも社員の幸せ、つまり、利他的な幸せを願っていることが、結果として自分の幸せにも繋がっているということです。しかし、若いうちから周りの幸せのことばかり考えることは難しいですので、若手起業家に関しては、失敗も含めて、いろいろなことにチャレンジしてほしいなと思っています。年齢を重ねると、自然と周りの幸せを考えられるようになりますので、若いうちはチャレンジすることを大切にしてほしいと思います。

 

「性格は五つに分類される」

松本:性格の良さは幸せと関係しますか?

前野:1,500人に調査した結果によると、幸せな人は性格も良いというデータが出ました。人の性格は、「外向性」「情緒安定性」[開放性」「勤勉性」「協調性」という五つに分類されます。この五つが総合的に高い人が幸せだという結果が出ていますので、この要素を少しでも高めることが幸せになるポイントです。

 

「夢は世界平和」

松本:前野さんの夢はなんですか?

前野:すべての人が幸せである世界が作れたらと思っています。今、残念なことに不幸な人が多いですが、70億人が70億通りの夢や目標を持って、尊敬し合って、前向きに自分らしく生きられる世界になれば、戦争も憎しみ合いも起きないと考えています。争いは職場間の小さな争いから、国家間の大きな争いまでありますが、幸福学から言うと、争うよりも協調的に利他的なほうが幸せになるという研究がありますので、みんなが周りのことを思うことができれば、確実に幸せな世の中は作れると思います。私ができることは小さな一歩ですが、ワークショップなどを通じ、幸福学を広めていくことで、世界平和に繋がる活動をしていきたいと思っています。

 

「本当にやりたいことを見つける」

松本:起業を考えている方へメッセージをお願いします。

前野:大学に起業デザインラボというものがあり、起業した学生に話を聞く機会があったのですが、全員が、「やりたいことを実現するために起業しただけで、社長になりたくてなったわけではない」と言っていました。また、伝統工芸品を世に広める活動をしている「和える(アエル)」という会社の矢島社長は、元々は伝統工芸品を伝えるためにジャーナリストになろうと思っていたそうですが、伝統工芸品を広める会社がそもそもないということで、自分自身が起業して、発信する会社を作ったそうです。このように、金儲けのために起業するのではなく、本当にやりたいことを見つけて、それを実現したいという強い思いを持つことが、幸せな社長になるコツだと思います。

 

「こだわるものを探すべき」

松本:やりたいことがない人はどうすればいいですか?

前野:起業するために勉強会などに参加することも大事ですが、何もやりたいことがない状態で行っても、モチベーションが上がらないと思います。まずは、やりたいことを見つけることに時間を割くべきで、起業準備の9割はやりたいこと探しに費やしてもいいぐらいだと思っています。お金だけを目標にしても、達成したあとに幸せを感じることは少ないですので、しっかりやりたいことを見つけて、こだわりを持って、起業してほしいと思います。

 

 

 

起業におすすめな本/社長の「1冊」

月曜日が楽しくなる幸せスイッチ

■あの茂木健一郎氏(脳科学者)も絶賛! 
NHKの「あさイチ! 」や「白熱教室」などで紹介されて大反響。 日本における幸福学研究のエキスパート(慶應義塾大学研究員)が執筆! 

「サザエさんシンドローム」というフレーズを聞いたことはありませんか? それはアニメ「サザエさん」の放送が近くなる日曜日の夕方頃から、急に気分がブルーになってしまう状態のこと。皆さんも一度は体験したことがあるはずです。なぜそんな感覚に陥ってしまうのか。それは「私たちの意識が整っていない」から。それゆえに日々の中で、「長続きしない幸せ」(お金・モノ・地位など)を追い求めてしまっていることに原因があったというのです。

 

前野 隆司(まえの たかし)

慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 研究科委員長・教授
1962年山口県生まれ。東京工業大学工学部機械工学科卒業。同理工学研究科機械工学専攻修士課程修了。修士課程修了後、キヤノン株式会社生産技術研究所勤務、カリフォルニア大学バークレー校機械工学科訪問研究員、慶應義塾大学理工学部機械工学科教授などを経て、2011年より現職。1993年、博士(工学)学位取得(東京工業大学)。ヒューマンインタフェースのデザインからロボット、教育、地域社会、ビジネス、幸福な人生、平和な世界など、様々なシステムデザイン・マネジメント研究を行っている。

主な著書に『脳はなぜ「心」を作ったのか─「私」の謎を解く受動意識仮説』(筑摩書房刊)、『思考脳力のつくり方─仕事と人生を革新する四つの思考法』(角川oneテーマ21刊)、『幸せのメカニズム─実践・幸福学入門』(講談社現代新書刊)、『幸せの日本論 日本人という謎を解く』(角川新書刊)ほか多数。

TAKASHI MAENO
http://www.takashimaeno.com/

前野隆司のブログ
http://takashimaeno.blog.fc2.com/

前野 隆司の著書一覧

 

 


 

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